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日々の生活から気になる事柄やものたちを、日記を通して紹介していくサイトです。水曜日には「やわらかい英文法」と題して、英語に関することを載せています。(平成23年3月現在)
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娘 早希が、昨日安らかに旅立ちました。

とても自然で美しい最期だった。

この2年間ぴったりと傍にいた私は、彼女の芯の強さに何度も感心させられ、いろいろなことを
考えさせられた。

私の残りの短い人生、彼女の母親であることを誇りに思いながら生きていきます。
彼女に恥じないように生きていかなくちゃ。

最後の最後で色んな事があったけど、今はただ穏やかに時間を過ごしたい。

大好きだったジャズの音源が流れる中で、お花に囲まれて、早希を愛する人たちに囲まれて、
彼女らしくさわやかに送りたい。

早希ちゃん、お疲れ様。よく頑張ったね。
今度はもう少しいい母親になるから、来世でまた私の子供として生まれてきてね。

楽しい時間をありがとう。





アロマオイルの穏やかな香りに包まれながら、私の指が娘の掌をもみほぐす。
体温 呼吸音 わずかに動く指先 時々合う視線 すべてが愛おしい。
わずかに残された彼女の 「生」 を慈しみ ただそこにいる。
悲しくも幸せな 私の時間。

 娘が入院しているときから何度もお見舞いに来てくれている娘の友人、スガ あかりちゃん もっちん の3人が、連休最終日の22日火曜日に来てくれることをその2日前に聞いた。

おかあさんに会いたがってましたよ・・と、その時ヨッシイが笑顔で伝えてくれたので、
これまでは密を避けていたけれど、私も一緒にその場に参加することにした。

小学校 中学時代から知っている彼女たちがとても懐かしく、楽しく会話が進む。
会話に参加できない娘も、いつもより顔色も表情もいい。やっぱり友達に会うことが
嬉しいんだろう。

「あ~、チエコ様と話してるって今感じてます!」
とあかりちゃんが突然言った。
私は娘の一部の友達たちから いじられているのか親しみを込めて言われているのかわからな
いが「チエコ様」と呼ばれている。

娘が高校時代、チエコがああでこうでさ・・とスガに話していたら、傍にいた他の友達が
「チエコってだあれ?」と聞いたらしい。
それにスガがなぜか憤慨して 「よりによってあなたチエコ様を知らないっていうの?」
と言ったのが始まりだとかそうでないとか。

笑いのある会話がひと段落着いたところで、私は彼女たちに真面目なトーンで聞いてみた。

「忙しい中何度も何度も早希に会いに来てくれてほんとにありがとね。だけど・・早希
が少しずつ悪くなっていくのを目の当たりにするのは悲しくて辛くないの?大丈夫?」

するとあかりちゃんが伏目がちに言った。
「そりゃ悲しいけれど・・でも見た目は変わってしまったけれど、ヨッシイから普段の早希
ちゃんの様子を聞いたりして、早希ちゃんはそこにいる。私達の知っている早希ちゃんだ・・
って思える」

彼女たちは早希の中身を感じ、愛おしんでくれているのだ。

31年前 早希がお腹にいた時、私は赤ちゃんに会えるのを楽しみにしながら
色んなものを手作りして時間を過ごしていた。

パッチワークのおくるみ、ベビー服。そしてよくそんなもの作ったな、と今は思うけど、
純白のブロード綿でフリルのついた布団やベッドサイドガード(枠に赤ちゃんがぶつかっても
衝撃が少ないようにぐるりと取り巻く緩衝目的のキルト)まで手作りしていた。

蒲田のユザワヤ(巨大手芸用品店)帰りの目蒲線で、向かいに座っている方の新聞に、巨大な
文字で「昭和天皇ご崩御」と書かれているのを見つけたのは、今にも破裂しそうな大きなお腹
を抱えている、私 妊娠月9か月の時だった。

「私の生まれてくる赤ちゃんは昭和生まれじゃなくなっちゃうんだ・・」と思ったのを
鮮烈に覚えている。

赤ちゃんのための手芸本を何冊か買った私は、その一冊のあるページの赤ちゃんにくぎ付けに
なった。天使のように可愛らしいのだ。

現実の厳しさを知らない夢見がちなプレママは、「こんな可愛らしい赤ちゃんだったら
いいな・・」とため息をつきながらそのページにとどまっていた。

早希が生まれた。
私はびっくりした。だってあの手芸本の可愛らしい赤ちゃんがそのものだったから。

有頂天になりながら、まるで人形遊びをするかのように手作りの服を着せては早希の可愛らし
さを楽しんでいた。

その喜びが不安に変わっていったのは、彼女が思春期に差し掛かったころ。
周りが彼女の外見をほめる。まるで彼女自身が素晴らしいかのように。
それが人間形成に影響するのは必至だろう、そう思ったのだ。

「ねえ、私はコンプレックスで成長したのよ。あなた みんなに外見褒められていい気に
ならないでね。単なる偶然なんだから。勘違いしないでよ」

そういう私に、娘は ウザいな というような表情をした。

そんなことを言っていたくせに、娘が病気になって外見が変化していくことに辛く悲しい
思いを私はしていた。私の早希ちゃんが壊れていく・・彼女の外見を愛していたのは外なら
ぬ私だったのだ。

ある日ダンナが言った。
「早希ちゃんのポヤンとしたあの表情可愛くてね・・・」

今、早希ちゃんが心底可愛いと思える。
この気持ちの深さを自覚できる。

外見を通り越して、その人自身に到達できる愛情を感じられるか、自分にもその愛情を人に
感じてもらえるか・・が、人生の醍醐味ではないかと思える。

それは見た目に限らず、その人の地位 財力、才能さえも 今の私には単なる外見であると
感じてしまう。
それは地位も財力も才能も持っていない人間の嫉妬の裏返しなのでは?と言われればそれも
真実かもしれない。

それでも私は、例えば素晴らしい絵 素晴らしい文章に敬意を表することはあっても、
それを描いた人にその敬意を向けることはまずしない。
なぜならその人の人間性を知らないからだ。

全く利害関係のない関係性、利害関係フリーの純粋な愛情。
私は今、この愛情の深さに包まれていることで、生き続けている。

早希の写真を何枚かあげようかな、と思っている。
それは病気前の写真だ。
早希が存在していたことを人に知らしめたい。
でも同時に早希の内面を知らない人たちには、表面的な美しさだけを提示したい。
その美しさのイメージで記憶に残してもらいたい。

レモンの木が裸になりかけている。
だいぶ前に大きな青虫を見つけた。
そのままにしていたら数日で葉っぱを食べつくされた。

今の私はどんな小さな命もないがしろにできない。
共存 って 永遠の課題だね

ここに来て大きな問題が発生している。
実のお姉さんのように感じていたヨッシイママの「宗教」が再燃焼し始めたからだ。

次はそんなことを書こうかな
ではまた。




焦って貼り付けたら大きすぎて横になってしまった。
もう出かけなければいけないので、後でゆっくり直します。悪しからず






どうしたって このまま宙ぶらりんで生きていくことはできない。
生きていかなきゃいけないなら、何としても地に足をつけなくては。

現実世界の足場が私の体重支えられない程 もろく ぐらぐらに思えて、
私は天を仰いで宙ぶらりんの状態で毎日を過ごしていた。

以前シナリオを勉強していた時、ストーリーを進めつつ、いつも着地点を意識していたことを
思い出した。

フィクション世界の現実に起こる事柄、登場人物のセリフ表情行動、主人公の気づき、
主人公を取り巻く 果てしなく広がる空間 時間、そして人、また人。

「登場人物Aの あの言葉と表情が、伏線だったのですね・・」
と、私が読み上げた課題シナリオに対して、クラスメイトは言ってくれたものだ。

実際の所 私にはそんな伏線回収なんて策士的な能力はなく、すべての出来事が自然の流れで
一つの方向へと統合していった。それだけのことだった。

そう、私には意図なしに 無意識に、伏線らしきものを回収し、着地点を見つける能力が
あるらしい。
ならばこの能力を使うことで、私は今の自分を助けることができるかもしれない。
無理無理でもそうする必要があるの。

前回書いたように、私は自分の「明るさ」に対して、ケッ とつばを吐き捨てていた。
過酷な現実から目を逸らし、しがみつくようにして放って来た私の「明るさ」に。

歪んだ心を持ちながら、それでもなおニコニコしてしまう私の前に、看護師の石黒さんが
登場する。
彼女がきれいな涙を落してくれた紛れもないあの日、玄関で見送る私に 石黒さんが言って
くれたことの意味がずっとわからないでいた。

「私達みんな 千恵子さんの明るさに助けられてきました・・」

私はぽかんとして反応できずにいたと思う。
だって意味がわからなかったから。

助けられてきたのは私達で、私が訪問看護師さんやお医者さんを助けてきたって
何だろう・・って。

私は娘の家に訪問してくる彼らしか知らない。
丁寧な診察やお世話を提供してくださるだけなく、彼らは私との気の置けないおしゃべりを
する時間も持ってくれた。

旅行の直後、写真見せてね・・と言われていたので、テレビ画面でスライドショーを開催して
3人の看護師さんにみてもらった。

そしたら2日後にいらした訪問医師の町田先生が、すべての診察を終えた後に恥ずかしそうに
言った。

「・・あの・・旅行の写真、僕も観たいんですけど・・いいですか? みんながすごくいいっ
て言ってました」

私はじわっと心が温かくなるのを感じながら 「もちろんです!」と言いながらスライドショー
の準備に取り掛かった。

もう自力で排便できない娘のお下の世話を、ずっと担当してくださっている看護師の飯塚さん
ともいろんなお話をしてきた。

「早希ちゃんを軸に、ご家族の支え合いの協力体制、すごいですよね・・」
と飯塚さんが言った。
「私もホントそう思うの。自分がそのシステムの中の一部であることに幸せを感じる
位・・・うん、奇跡的にうまく行ってると思う・・」
そう私が言ったら、いつもは「ですます調」で話す飯塚さんが感情に任せたように目を
ぱちくりしながら言った。

「私、こんなの初めて・・」

私達の所以外の現場で働く彼らを想像した。

病床のお年寄り、難病の若者、彼らの行くところに幸せの要素は少ない。
八つ当たり的にひどい言われ方もしてきたのかもしれない。
細かい要求を突き付けて、文句ばっかり言う人も中にはいるのかもしれない。

そっか・・私のエセの明るさも、人に癒しを与えているということもあるのか・・

そう、これが私の着地点。
これを読んだ方、私のズルさを堪能してもらえたなら なお嬉しい。

昨日はね、娘の所で「誰かが見ている」を6話まで観たよ。
今日全部見終える予定。
スワン・・も観に行くよ。

四半世紀経って 未だに話しかけられることがすごいと思って。
途中長いインターバルはあったけど、あの時から始まったのだから。

今日はね、最近購入したお気に入りの物の写真をあげようと思って。
私のブログタイトル、My favorite things にきちんと沿って行こうと思います。

ショッピングって言ったって、全部ネット。
時間も体力もないから。
ぽちり に全神経を集中する。

ネットショッパーとしては滅茶苦茶成功者だと思う。
買ったものほとんどに満足する。洋服も家具も洗濯機もすべてネットで買う。

選択眼 があるというのも 私の一つの能力かもしれない。
こんな能力、使わなきゃ損損! そう思って、余計なもの買ってるかも。

早希ちゃんが可愛くてしょうがない。
脳性麻痺で、前の早希ちゃんとは程遠い表情をしているの。
でもすごく可愛い。

病気になる前、モデルさんになれるよ! とか 綺麗だね! とか娘の外見をほめる人が
とてもたくさんいた。そういう人たちは今の早希を見たらどう思うんだろう。

次はそんなこと書こうかな。
ではまた。









コップと花瓶がお揃い。大好きな水色

主人が皿洗い中に私のお茶碗を割った。
陶器やガラス物はいつか割れる。
どんなに気に入っていたとしても私はがっかりしない。
んで、探したのがこのお茶碗。豆皿も急須もついでに購入。

メイク美容用のスタンドミラー ケユカで800円くらい
もうちょっと美容に時間を割こうという意味合いも込めて・・

缶が欲しくて大人買い。Hokkaのムーミンクッキー
この大きさ深さの缶を探してた。自分好みのお裁縫箱をセットアップしたい!
ダーニングの糸とか針とか、ピンクッションとか、可愛く入れたい!

赤いスパチュラ。一目ぼれ。
ハンドミキサーも買いなおした。安くて(1800円くらい)すごいいい!dretec HM-706。

これでね、マンゴーチーズケーキを作ろうと思うんだ
















「何度も手紙を書いてみたけどうまく書けなくて。どこへでも出て行くから30分で
いいから顔をみたい。もちろん無理はしないで欲しいけど」

いつも私の誕生日に おめでとう! とラインを送ってくれる小学校時代からの親友の
みいちゃんに、ありがとう! の返事と共に今の状況を知らせたら、一週間後 このように
返ってきた。

「少しでも顔を見たい」という彼女自身の気持ちに直結した言葉に心を動かされた。
何もできないことはわかってるけど居ても立っても居られない、という彼女の正直な様子が
文面から伝わってきた。

「誰かに会うならみいちゃんに会いたい・・」
と返事をして、一昨日 娘の所を少し早めに退出させてもらって、夕方から会うことができた。

その時にみいちゃんが言ってくれたことで一番印象に残っていることがある。
それは、「単に逃げていただけだったの・・」と私が懺悔した時、みいちゃんが反応してく
れた言葉の内容だ。

最近私は自分の楽観性についてよく考えていた。
「ポジティブ」 であることは生きていく上でいいことづくめであるように世間では
言われている。

何か物事が起こった時に、私と娘は正反対の反応をすることがよくあった。
ポジティブ ネガティブ とは、本当はどういうことを言うのだろう。

娘は物事の事実を調べつくし、最悪のシナリオを想定しながらその物事に立ち向かい、
結果最悪にならずに済んだなら、あ~良かった・・とほっとするタイプ。

私はなんか頭悪い感じで恥ずかしいんだけれど、あまり調べもせずにきっと大丈夫、
と何の根拠もないのに思い込み、結果大丈夫だったら、やっぱりね・・よかった、と思うだ
けでなく、強く信じてれば少しは思う方向に事が進んでくれるものなんだ、くらいのアホっ
ぽいことを考えがちだった。

そして娘が病気になった。

放射線が効いて、一見元の元気な体に戻ったように見えた去年の5月から10月までの
間に、娘は貪欲にしたいことをしていた。旦那さんのヨッシイは娘の言いなりだった。
彼女がしたいことをすべて実現させていた。

私 「早希ちゃん、ヨッシイにわがまま言って甘え過ぎじゃない?」
娘 「・・今甘えないでいつ甘えるの?」

上の会話で娘と私の病気に対する覚悟が全然違うことがわかるでしょ?
私は、このままずっと元気でいてくれるかもしれない・・って本当に思ってた。
というかごまかしていたんだと思う。
それはポジティブとは全く別個の、現実から逃げたいから敢えてはっきりさせたくない・・
みたいなことなんだと思う。

娘の会社が、去年の今頃「一応現時点で退職という形となりますが、将来的に復帰できる
状態になったらそれに応じていつでも受け入れますの安心して療養してください」という
寛大な措置をしてくださった。

「ありがたいね。復帰できるくらい回復できるといいね・・」と私は無邪気に娘に言った。
この私の言葉が娘を動揺させて激しく泣かせたのだ。

「何も知らない他人ならまだしも母親にこれを言われるのはキツい。私の病気がどういうもの
かわかってる?私が調べてプリントアウトしたものをちゃんと読んで。読んだらそんなこと
言えないはずだよ」

前回、想像力の欠如がどうのこうのとここに書いた私は、想像力の欠如と現実逃避から
娘を泣かせていたのだ。

このことをみいちゃんに言ったら、彼女はその時の様子をすぐ理解してくれてこう言った。

「それは言葉そのまんまじゃないと思うよ。早希ちゃんだって甘えてるんだよ。
闘病の辛さを頑張って乗り越えながらも、でもどこかに不条理のやるせなさをぶつけたい時、
母親しかいないんだと思うよ」

「そうなのかな・・でも私のポジティブは結果 似非だった。
大丈夫って何回も信じて何回もどん底に突き落とされた。7月1日の最終宣告で、私の
軽薄な信念がもろくも崩れ落ちたんだ。今は怖くて何も信じられない・・・」

みいちゃんは黙って私の言うことを聞いてくれていた。

今日はみいちゃんがくれた、高野フルーツのプリン&ゼリーで娘の味覚を楽しませた。

誤嚥のリスクもあるので、基本点滴だけで前ほど頻繁に口からは食べ物を入れないように
しているけれど、季節の浜梨でシャーベットを作っては持って行ったり、病気前、ジャンク
好きだった彼女に「チーたら」が食べたいと言われれば、出汁と共にミキサーかけてゼラチン
でゆるく固め、味わってもらったりしている。

この高野のプリンゼリーはプリンとゼリーの二重層になっているだけでなく、一個に2種類
の果物やヨーグルトが使ってある贅沢品だ。

今日のは ストロベリーのプリンとラ・フランスのゼリー。
他にはマンゴープリンと白桃ゼリーとか、ヨーグルトプリンとピンクグレープフルーツゼリー
等々、組み合わせが素人には考えつかないもので、プリン ゼリーを単体で食べるもよし、
両方いっぺんに口に入れると、1+1以上のものが必ず返ってくる。

コンビネーションて大事よね。
単体よりコンビを愛し、ストレートよりブレンドを愛す。

もう今私には、えせポジティブには逃げ場がなく、フィクションの世界に逃げ道を
探ったりしてる。

アマゾンプライム入っててよかったって思ってる。
映画もたまには観に行こうって思ってる。

夕方にマンションの住人さんに会って、お互い「こんにちは」って挨拶したけど、
本当の気持ちは、「こんばんは」 だった。

















 









東の窓から朝日の差し込む寝室、本を読んでいる私のお腹の上でハルが寝そべっていた。
ハルの可愛らしい重みと共に読書をする・・・私のお気に入りのルーティンだ。
ただし残念ながらこれはそう長く続くことはない。

ハルは私が彼以外のことに集中しているのが嫌いだからである。
それは子供たちが小さかった時にも感じていた「愛すべき・懐かしき 不自由」

水色を基調にした背景に、アシンメトリーな人の顔いっぱいの表紙を持つ単行本に
夢中になっていたら、その下端からハルのマズルがにょきりと現れた。

斜め上に筆圧の強い斜線を引くようなマズルの動きに順応して、分厚い本がひょいと持ち上がり、横側にそれた。その何分の一秒の間に、私の動体視力は、文字の羅列が蛇のからだのように
ぐにゃりと流れるのを捉えていた。

逆らわない。もう逆らいたくない。
私は本を横に置き、ハルと対峙する。

そして ハルのまなざしに向かって私が口を開く。

「ハル。さきちゃんね、死んじゃうんだよ。さきちゃん死んじゃうの・・」

悲しみも喜びもない平坦なトーンで私は言葉を放つ。
わずかな空気の振動がハルにまばたきをさせたのも一瞬のこと。

いつも私は中立なハルに救われる。
ビー玉のように動じることなく私を見つめるハルの目は、感情を手放し ありのままを
受け入れる包容力に満ちていた。

ーーーーーーー上の私の言葉に違和感を感じたならば、あなたの日常は幸福な証拠だ。

ここに来るまで、どれだけそしてどんな時間を過ごしてきたかを他人に想像しろ というのは
無理な話だ。無理ならば、無関心の方がありがたい。と感じたこともある。

完璧でない想像力は時として暴力にもなりうる。
不完全な想像力が結んだ映像を土台に、確信を作り上げてはならない。

一年後二年後にはほとんど全滅に近い難病であることを知らずに、5年生存率90パーセント
の病気を例に出して、「その人、元気になったんだよ・・だからさきちゃんも絶対大丈夫
だよ!」と励まし方をする人が少なからずいたのは事実。

私を慰めようと思って一生懸命言ってくれているのだから、ありがとう、と受け入れる。
でも、違うんだよ、そんな簡単なことじゃないんだよ。って心の中で思ってた。
絶対・・って言葉、そんなに簡単に使ってもいいものなの?って。

娘の旦那さんのヨッシイにそのことを言ったら、彼は フフッ と小さく笑って、
うるせっ!!って思いますよね・・と吐き捨てるように 言った。
・・・彼は普段からとんでもなく穏やかな人であることを付け加えておきたい。

不治の病に冒された子の母親として、私はいつも自分に問うていたことがある。
娘の立場に立って考え、行動し、感じているのか?

ここにも想像力が必要となって来る。しかも研ぎ澄まされた隙のない想像力が。
想像力の限界を思い知らされながら、私こそが全面的に想像力に頼らなければならなかった
のだ。

そう、そして私は問い続けた。
娘を失う可哀そうな母親と 自分を可哀想がってはいないか?
そういう風に周りから見られる自分を憐れんではいないか?

自分を可愛そうと思い始めたら、なんだか終わりなんじゃないかと直感で感じていた。
そうなりそうな時は、何とかして踏ん張った。

前回ここにあげた温泉旅行、行けたのは奇跡だったと思う。
あの直後、娘は口から何も受け付けなくなり、経管食のための管を入れる目的で
火曜日に入院した。

経管食に慣れるために、2週間の入院が必要と聞かされた。

ここに来て閉じ込めの状態で一人の時間を2週間も過ごすのは娘にとって地獄だろう・・
と私は想像した。

「自分の家で最後まで過ごしたい・・という娘の願いを叶えるために、これまで家族で
協力し合ってやってきました。彼女の傍には誰かしら家族がいて、話しかけ世話をし、
スキンシップを取ってきました。今彼女の生が残りわずかのこの時期に、一人ぼっちで
病院のベッドに置き去りにされるのはたぶん娘にとっても私にとっても耐え難いことです。
母親として、できる限り早く娘を自宅に戻してあげたい。
先生にその旨を伝えておいてくださいませんか?」

翌日、先生を交えて家族との話し合いを持たせていただき、経管食を中止し、代わりに
栄養水分補充の点滴をすることで退院許可をもらった。

娘は昨日退院して、念願の自宅に戻った。
ヨッシイは娘に24時間向き合うために会社の休みを取った。

「早希ちゃん、大好きだよ・・」と私は彼女の頬を掌で包みながら何度も言う。
彼女が初潮を迎えたころから 言ってこなかった言葉を、私は今何度でも繰り返す。

昨日ずっとお世話になっている訪問看護師の石黒さんとお話をする時間があった。
立場上、彼女は看護師さんとして最期の時の確認をしなければならなかった。
延命治療をするか否か、等。
全てを自然に任せるが、最後だけはモルヒネを使ってほしい、とアイトラッキングで伝えて
きた娘の意志を、再度石黒さんに伝えた。

石黒さんが「完璧なまでの家族の協力、温かい支えを見ることができました」と言ってくれた。

私は言った。「昨日ね、ヨッシイママが言ったの。大変だったけど充実してたって。
何か大事なものをもらった気がするって。私はその言葉が本当にうれしかった。
だって私達、嚥下食のシェフになれるんじゃないかってくらい、いろんな物作ってきた
からね。子供を失うって、私が考えうる中で一番の不幸だと思うけど、そんな不幸のさなか
でさえも幸せを感じることができるんだってわかってびっくりしたの。
悔しいけどね。ほんとに、なんで?って、誰彼に問いただしたくなるけれど、たぶんそこには
何の理由も意味もないんだと思うんだ」

石黒さんの目から、きれいな涙が一粒ポロリと落ちた。


















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主婦 英語教師
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