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日々の生活から気になる事柄やものたちを、日記を通して紹介していくサイトです。水曜日には「やわらかい英文法」と題して、英語に関することを載せています。(平成23年3月現在)
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息を引取った直後から、早希の身体に不思議な変化が生じた。
身体のすべての生の営みが止まったのに 膚が蘇っていくようだった。
きめが整い始め、陶器のような透明感のある肌へと変わっていく様子を 驚きと感動と共に
目撃していた。

表情も、・・もう苦しい呼吸はしないでいいのね・・よかった・・と言っているかのように、
ほっとしたような 安らかなものへと変わっていった。

常にマッサージを施していた彼女の温かい手がひんやりと冷たくなるころには、病気前の
「美しい早希ちゃん」に戻っていた。

「早希ちゃん・・解放されて自由になったんだね。きれいだよ」

        解放       自由 

自分をしっかりと持つ自由な早希を、魂となっても自由にさせてあげたかった。
それが私が彼女にしてあげられる最後のことだと思った。

そこにたどり着くまで、「人を送る」ということの意味や考え方の食い違いを埋めるため
に、時には感情的に 時には冷静に 我々の間でたくさんのやり取りがあった。

相手がだんまりを決めている場合や一方的に話している場合を除いて、会話と言うのは
キャッチボールであるのが基本だ。

でもここでは礼儀上、私の話したことだけを並べていこうと思う。
私の言葉で相手が誰なのか、私の言葉に対してその人がどういうことを返したのか・・・
それは想像してみてください。それぞれ話し相手が違ってます。

それを完成させていくことで、あなたの隠れていた価値観がひょっこり顔をみせることが
あるかもしれませんよ。

・・それは今から2週間ほど前、早希のお式やお墓のことに言及されたことで始まった。
早希のスマホには遺言のようなものが残されていた。

「・・お花に囲まれて送られたい。お墓は樹木葬とか自然なものにしてほしい。同じ
宗教の方々に囲まれるのは窮屈なので、自分の残したお金でできる範囲の小さなもの
にしてほしい。再婚してくれたら安心するけど、もしずっと一人だったら一緒にはいり
たい。何かもめた場合はこれを通してほしい」と。


「お式にお花をひとつも飾らず 葉っぱひとつなんて早希が可哀そうです。
お式は本人を送るためにあるものでしょ? なぜこうでなくてはいけない・・というのが
あるのでしょう。送られる本人が望んでいることをしてあげることが最優先ではないの
ですか?・・決まりだからしょうがない、というのは信者でない私たちには関係ないこと
です。今時お嫁に行かせたのだから嫁ぎ先の言う通りに、なんて通用しません。
古すぎます。私はあなたが大好きなんです。言葉にできないくらい感謝もしています。
でも宗教の話をするあなたは、大嫌いです」

「あなた私にバカヤローと言いましたね。確かにバカなところがあるのは認めます。
でも私がバカヤローなら あなたは私の何十倍何百倍の『大馬鹿野郎』です!」

「あのさ、さっきの電話で言ってくれたじゃん。『自分の立場を人に押し付けることは
人を不幸にします。それはハラスメントです。あなた古臭い考えに縛られるのをやめて
、自分の頭でちゃんと考えたらどうですか?』って・・。本当は無口で争いが嫌いなのに
頑張ってくれてありがとう。すごい感動したよ・・」

「ちょっとの間の我慢だから。単なる脅し文句。可愛いあなたと縁を切るなんてできるはず
がない。落ち着いたら自然に戻るから・・わだかまりがある場合は私が間に入るから」

「ここに来て何ぶれてんの?決心したんじゃなかったの?
早希のことだけ考えるって言ったの あれは嘘だったの?
あなたをぶれさせた相手の言葉は何?言えないの? 
それを言ったら自分たちのことだけ考えてるって私に悟られるからでしょ?
たぶん向こうの言葉は・・このまま行ったら家に大不幸が起きる そんなの困る・・とかで
しょ?お布施をしなかったら不幸になる とか この宗教に入っていなかったらこれから来る大災害で助からない とか、それとおんなじじゃん。宗教って何なの?
ブッダはもともととても自由な人だったのよ。泣いてないでちゃんと説明しなさい!」

「決心してくれてありがとう。今のあなたにできる最高のことをしてくれたと思う。
紙の上だけでのことなのだから、これからも私が生きている限り あなたは変わらず私の義理
の息子だよ。主人が言ってた。喪主になって欲しいって。
あなたの優しさは、ご両親に温かく優しく育てられてきたことが大きく起因していると思う。
早希の介護をあなたほど愛情持ってできる人はいなかったと思うの。
ね、自分でわかってるんだよね、優しさと自分の弱さの表裏一体。ちゃんと親離れして
自分の頭で考えて行ってね。いつか素敵な人に出会って その人と幸せになるために」

 このようなことを予期していたのか、早希は一年前から離婚届を用意して、自分の欄を
きっちり自分の筆跡で埋め、判を押していた。

早希らしいお式だった。
花に囲まれ 早希を愛する人たちに囲まれ 早希の好きなジャズが流れていた。

ダンナがふっと提案した。
「ペットと入れるお墓があるんだよ。早希ちゃん、あとでハル君が来てくれたら寂しくない
よね」
私は自分の顔がカーッと熱くなるくらい興奮した。

それにしよう!
早希の残したお金に 旦那さん と 主人と 私 と 息子 でお金を出し合って、「ペットと
入れるお墓」を購入した。今 ハル君の墓石(ハル、あと5年は生きて・・)に掘るハルの線画
を友達の画家に描いてもらった。

早希の墓石には『 愛 』という字、その左上と右下に流れるように 彼女の好きだった
ブーゲンビリアを彫ってもらうことにした。お墓はぐるりと緑に囲まれた風通しのいい高台に
ある。

シナリオを勉強していた私にとって、現実はフィクションを超えると思った。
半沢直樹最終回よりも ドラマチックであった。

雨の降る金曜日、ミッドナイトスワン を観に行った。
こだわりのない素直な人が 役者に向いているんだなって改めて思った。
この作品がひとつの分岐点になるかもしれないね。

あまりにも絶賛されているので、あえて私は正直な感想をひとつ。

「なんで私だけ? なんで? なんで私だけ・・」を繰り返し凪沙に言わせる場面があった
けど、そこだけは違和感を私は感じた。

ずっと苦悩してきた人はその言葉はすでに通り越しているはず。
もし万が一思っていたとしても、凪沙の表情だけにとどめてほしかった。

私が早希のお葬式で 「なんで私だけだいじな娘を失うことになるの?」と泣き崩れない
のと同じで。

でも映画はいいな。
また少ししたら 浅田家 だっけ? 観に行こうかな?

次は私の好きなアメリカドラマについて書いてみたいなって思ってる。
わかんないけど。




 

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